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住む人と創る人が一枚岩に

設計に時間を費やす

 建築物の複雑化・高度化にともない、建築家の分業化・専門化が進んでいます。建築設計の仕事は、空間やデザインを考える「意匠設計」、材料や強度を考える「構造設計」、電気や水道などの計画を考える「設備設計」におおむね分けられます。私は、この中でお施主さんの意向が最も反映され、全ての分野をまとめていく意匠設計を担当しています。
 お施主さんとの打ち合わせにたっぷりと時間を使い「対話」を通して、ライフスタイルやご要望などを話し合い、その思いを図面に描いていきます。もちろん、ディテールにもこだわりじっくりと考えながら作業を進めていく。時には、お酒を飲みかわしながら、違った視点で対話をすることで、新たな考え方が生まれてくることがあります。例えばクルマ好きのお客さんだと、たいていクルマ談義に華が咲きます。
 「じゃあ、クルマをリビングや階段からも眺められるようにしましょう」「ここはガラス張りのガレージにして排気ガス対策に換気扇をつけましょう。え、オートモビリアも趣味なんですか、(奥様の顔色を伺いつつ)だったら、それを飾る棚を設置して、ギャラリー風にしたらどうです?」といった具合に、アイデアを出しながら対話を進めていく。施主さんによっては、1年以上も設計に時間を費やすことがあります。
 ちなみに私はアイデアが浮かぶとその場でスケッチするので、スケジュール帳は、すぐ真っ黒に。毎年、同じスケジュール帳を2冊購入しています。
 工事が始まれば、今度は職人さんが加わっての新たな対話が再び始まり、施主さんと工事業者さんと一体になって、建物を創り込んでいきます。この対話のプロセスが、たまらなく面白くもあり、建物を創造する上で最も大切な要素のひとつだと考えています。

華道で「脳トレ」

 私は、10年ほど前から華道を習っているのですが、これが意外と仕事に役立っています。花材は、一枝一花すべて顔があるので、それぞれの個性を生かしながら計算して花器に投げ込んでいく。論理的、幾何学的な思考のトレーニングになります。
 生けた花がいくら華やかであっても、内面的な美しさが伴っていなければ評価されないとあって、華道は実に奥深い世界です。これは、建物も同じ。まずはそこに住む人のライフスタイルや嗜好などをきちんと理解してから、周りの環境に溶け込むように創り込んでいく。つまり建物の創造は、信頼の上に成り立っている。決して大げさでなく、それぐらいのプロセスを持たなければ心に響く「真の建物」は創(造)れないのです。しかも「時代性」という要素を頭に入れながら「永久性」のある建物を創造していくので、終着点はありません。

自然の恵みと暮らす

街中のオアシス

 自然との触れ合い、日本独特の四季の変化が感じられる住まいを求める声が、都心部でも高まっています。
 3年ほど前に僕が手がけた2世帯住宅のテーマは、ずばり「街中のガーデンハウス」。110坪という広い敷地面積、地元産の杉をふんだんに使った外観、樹木で囲んだ緑の庭、アトリエを兼ねた離れなど、かなり贅沢なプランですが、注目すべき点はそこではありません。
 例えばリビングの開口部。間口の幅を8mにまで広げ、5枚のガラス窓すべてを壁の内側に引き込めるようにし、中庭と室内がシームレスにつながり開放感を演出しました。また、リビングと繋がるように設置した縁側風のバルコニーは、青空の下でバーベキューをしたい、夜空を眺めながら一杯したい、子供をのびのび遊ばせたいという要望に応えた「もう1つのリビング」です。
 ユニークなところでは、母屋と離れを結ぶブリッジ状のスカイデッキ。単なるウケ狙いではありません。母屋と離れ屋を行き来きする面倒な動作を、「庭を眺めながら宙を歩く」という特別な体感に変え、家族を母屋から離れへと自然に誘導しているのです。

五感で愉しむ住まいのカタチ

 太陽の光、風など自然を家の中に取り入れる常套手段として、大面積のガラス窓があります。この開放感と明るさの演出は、当然、他人に部屋を覗かれるという心配があります。庭があれば植木が「目隠し」してくれるとはいえ、都心部の狭い住宅環境では難しいでしょう。
 プライバシーの確保と開放感の演出。この相反する要求を同時に満たしてくれるのが「中庭(建物や塀で囲まれた庭)」です。日当たりが悪い立地でも室内に明るさをもたらし、風通しも良くしてくれる。シンボルツリーとなるような広葉樹を植えれば、夏は程よく日差しを遮ってくれ、冬は葉を落として室内への日当たりを妨げません。空に伸びる木の枝は、空間の広がりを感じさせる効果も。何より家族全員で育てることで愛着が増していきます。
 中庭を通して室内に届けられる「自然の恵み」の効果は絶大です。京都の町屋の「通り庭」、スペインの「パティオ」など、世界各国の住まいに中庭が伝統的に付帯しているのは、快適につながる様々な機能があるからなのです。
 防犯の役割を兼ねる塀は、家との調和だけでなく、周辺の景観に溶け込むデザインにするのがポイント。「ご近所の目がセキュリティ」という人であれば、塀の代わりに樹木や草花を植えて開放的に見せるのもいいでしょう。
 光や風を取り入れることは、敷地の大小や立地の良し悪しに関係なく、どこでも平等です。僕にとって贅沢な住まいというのは、豪華とか高級とかの意味ではなく、心が豊かになる、あるいはそれを期待させてくれることだと考えています。環境問題が叫ばれる中、いかに「自然の恵み」を取り込むかは、快適な住まいを実現する上で、よりいっそう大きなテーマになりそうです。

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