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デザインで「売れる店」に

店舗デザインと住宅デザインの違い

 住宅はそこに暮らす人の希望を優先し、住む人が快適と思える空間を作るのに対し、店舗は「自分の店」というオーナーの夢を叶えるのと同時に、集客力と売上に響くところも計算しなくてはなりません。商品の陳列、席の配置、客の動線、装飾など、微妙なレイアウトが売上に影響しますから、結構プレッシャーだったりします。しかも店舗づくりの期間は短いことが通例で、そこに開店日が明確に決まってしまうと、もう大変。徹夜になることもあるわけです。まぁ、住宅に比べて使える素材や色、デザインの自由度が高いので、その分、面白味はいっぱいあります。店舗と住宅。デザインの違いで最も顕著なのは外観です。店舗は、個性的かつ人目を引くデザインにしますが、だからといって単純に派手にすればいいっていうものじゃない。お店の内容とバランスが取れていることが前提です。
 飲食店を例に挙げると、お客さんは当然食事を目当てにやってきます。でも、初めてのお店だと料理が一体どんなものかは分からない。ひと昔前なら、いかにも「洋食屋」、いかにも「中華料理店」といった具合に分かりやすいお店ばかりでしたが、最近は枠にとらわれない斬新なイメージのお店が増え、一体どんな料理を出してくれるのかイマイチ分かりにくい。言い換えれば、お客さんの興味はお店に入る前から始まっているのです。
 お客さんには、まず外観で期待感を抱いてもらい、インテリアとメニューでさらにそれを膨らませ、そして美味しい料理で期待以上の満足感に浸ってもらう。そんなストーリーを描きながら僕はプランを立てていきます。特にお店の外観やエントランスは、お客さんに期待感を持ってもらう最初のステップだからこそ、ワクワクさせるような工夫が必要になるのです。

くつろぎと驚きを与える

 「どんなお店なのか?」「どのくらいのグレードなのか?」「他店との違いは何か?」というメッセージ性をしっかり確立させる上で、重要なファクターになるのが色使いです。色が持つイメージを活用し、商品とその陳列棚、プライスボード、ラッピングペーパーなどにいたるまで、お店全体に統一感を持たせると、お店の特徴が伝えやすい。最近は、発色を抑えた淡い色を複数使うコーディネイトが人気。元気なナチュラル志向って感じです。
 店舗を必要とする商売では、立地条件が繁盛するか否かの大きなウエイトを占めています。「立地・従業員・デザイン」に対する売り上げ貢献度を割合にすると「5・3・1~2」と言われています。何やってもすぐに潰れてしまうような場所は、やはり立地条件に一番の問題があると思います。でも、最近はデザインの貢献度が高くなっていて、あえて人目につかない立地に出店するケースが増えているのも確か。この場合、デザインは主に「隠れ家風」あるいは「古民家風」。店内には随所に外観とギャップを感じさせるオブジェを置くなど、意表をつくような「何か」を取り入れてます。思わず誰かに語りたくなるような、いわゆるクチコミ効果を狙うわけですね。
 これから店舗を作りたいという人は、まず設計士・プランナーの選択を間違えないこと。住宅が得意な人と、店舗が得意な人がいて、言うまでもなく依頼すべきは後者です。僕たちインテリアコーディネーターは、消費者の心理や購買特性、流行など、常に新しい情報にアンテナを張りめぐらしているので、様々なノウハウをフィードバックすることができます。もちろん一番重要なのは商品力ですが、デザインの重要性は今後も加速すると思います。

店舗デザインを住宅に取り入れる

店舗デザインの流行

 店舗デザインのトレンドとしてここ数年、注目を集めているのが「モダンリビング」。洗練された大人のためのくつろぎ空間、平たく言えば「小洒落た洋間」です。その常套手段として、デザイナーズ家具や北欧家具、ミッドセンチュリー家具といった、シンプルの中にも高いデザイン性と機能性を持った家具を取り入れ、一点物の雰囲気を表現します。
 ミッドセンチュリーとは直訳すると「世紀の半ば」。1940年から60年代にかけてアメリカなどで起きた、新しい家具デザインのムーブメントを指します。戦時中に開発された様々な技術や新素材を応用した斬新かつハイクオリティなのが特徴。また、大量生産が可能になった時代でもあるので、工業製品として合理的で機能的、それでいてカラフルな発色をほどこした未来的なデザインもミッドセンチュリー家具の魅力です。中高年の方にとっては「昔、家にあったけど何でいまさら」と思うかもしれませんけど、50年以上経ってもその魅力は色褪せておらず、「戦争から開放された人々のパワー」がひしひしと伝わってきます。ちょっと前の日本、不況を脱出したいという背景が、ミッドセンチュリー家具を無意識的に受け入れていたのかもしれませんね。
 癒し、安らぎを狙った店舗には、日本の伝統的な家具やしつらいを現代的にアレンジした「和風モダン」というのが人気です。椅子やソファの高さは低め。床に座ってリラックスできる日本人に合わせて、家具は低くなる傾向にあります。和ではなく、和風モダンにアレンジした家具は、若い人の生活様式に取り入れやすく、住宅のインテリアでもトレンドになっています。

住宅はポイント使いで

 最近は住宅のインテリアもずいぶんお洒落になって、色の使い方、照明の選び方など店舗に近づいています。それだけ住宅デザインにこだわっている人が増えているのですが、住宅は店舗と違って頻繁に改装しません。常に流行の最先端を追うアパレル・ファッション系の店舗は3年から5年で改装するのに対し、住宅は10年、20年は使用します。住宅デザインは全体的に流行を追うのではなく、テーブルクロスや照明器具などポイントで使うべきでしょう。
 観葉植物の置き方にもトレンドというものがあります。窓側やクローゼットの上に置くのが一般的ですが、部屋の中央にどんと持ってきたり、部屋の隅に置くにしても、ぽつんと鉢を置くのではなく、床一角に土を敷いてプチガーデニングのようにします。大胆な方法でありながら、すぐに元に戻せて、費用対効果も高いので、皆さんも一度検討してみてはいかがでしょうか。
 ちなみに地元のよしみで個人的に興味を持っているのは「カリモク60」。カリモク家具販売(本社・愛知県)が手がける60年代テイストの家具ブランドで、もともとも事務所用家具として販売されていたものを、デザインを変更させずに、若者向け家具としたもの。1脚2万円台からという手ごろな価格設定と、設置する環境を問わないデザイン性が美点です。
 前にもお話しましたが、店舗デザインはときに「売上」を左右し、住宅デザインはそこに住む人の「人生」を左右することさえあります。その課せられた仕事の重みこそがインテリアコーディネーターという仕事の醍醐味だと思います。

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